相手から「Yes」をもらいやすくする段階要請法を活用した心理的会話術

Yes

人は一人では生きていけない
私たちは助け合って生きているんだよ

と、よく啓発本やドラマのセリフなどで言われていますが、そこまで大きなテーマではなくも、友人や同僚にちょっとした頼みごとだったり何かしらの願望を聞いてもらうようなことは生活していく上で確かにあります。

あの講座のノート貸してくんない?
ちょっとだけ残業付き合って…!

この日のシフト変わってくれない?

などなど、相手にも行動を伴わせる頼みごとをする時にはちょっとした人間の心理作用を刺激することで相手から「Yes」をもらいやすくする手法がいくつかあります。

ここでは、そのうちの代表的なひとつとされる

段階要請法
(フット・イン・ザ・ドア)

についてみていきたいと思います。

段階要請法

…の前に、

人が持つ「一貫性の原理」

光

人には基本的に一度決めたことをやり通そうとする傾向があるとされています。

例えば…

  • 一度観始めた映画がたとえつまらないと感じても最後まで観てしまったり、
  • 「禁煙する」と友人たちの前で公言したり、
  • 軽い気持ちで参加してみた何かしらの活動を最後までやり抜いたり、

などが「一貫性の原理」と呼ばれるものです。

上記のように一度自分で始めたことや決めたことを最後まで貫き通したりやり遂げようとする気持ち誰しもが深層心理に持ち合わせていると言われています。

また、話や主張や行動が一貫していることは、周りから社会的な信用も高く人格的にも優れていると受け止められる傾向にあります。

逆に「一貫性がない人」って聞くと、ちょっとマイナスなイメージを持たれがちですね。

一貫性の原理を応用した段階要請法

螺旋階段

この、人が誰しも深層心理に持つ一貫性を応用したのが「段階要請法」と呼ばれる手法で、

最初に簡単な頼みごとを相手に聞き入れてもらいながら、徐々に頼みごとの難易度を上げていく

ことで、最終的に本来したかった頼みごとなどを聞き入れてもらいやすくすることを指します。

相手は、最初の簡単な頼みごとで「Yes」と答えて頼まれごとを聞き入れてしまっているので、次にされる頼みごとにも一貫性を保とうと「Yes」と言いやすくなる傾向があります。

こうして断りづらくなってしまっている状況を巧みに演出するのが「段階要請法」になります。

MEMO

段階要請法は、セールスマンが訪問販売などでまず話を聞いてもらうためにドアに足を挟むことから始めることにちなんで、心理学術的には

フット・イン・ザ・ドア(・テクニック)

と呼ばれています。

小さなコミットメントを引き出す

スマイル

ここで大切なのは、相手に「Yes」を言わせることではなく、相手から「行動を伴う小さなYes」を一度引き出しておくことです。

これは「コミットメント」と呼ばれ、相手に自ら関わりをもたせることで一貫性の原理がより強く働く傾向があるためです。

MEMO

「結果にコミットする」など一時よく使われたりもしてましたが、

[note title=”コミット”]
  • 確約する
  • 積極的に関わる
  • 責任を持って取り組む
[/note] [note title=”コミットメント”]
  • 自ら関わりを持つこと、またはその行動
[/note]

といった意味合いで使われる時が多いです。

段階要請法が持つ効果実験

検証

この段階的要請法を使うのと使わないのでは、どのくらい相手から「Yes」を引き出せる確率が違うのか…?

ちょっとした効果実験結果があるので、ご紹介させてもらいます。

段階的要請法の効果実験アメリカのある地域で行われた実験で、実験者が、

私は
「住民の交通安全意識を高めるための市民団体」
の者です。

と名乗り、

玄関先に
「気をつけて車を運転しよう」
と書かれたこの看板を置いてほしい。

と、割と大きめの看板を携えて個人宅を訪問して周ったところ、約15%の家が「Yes」と答えました。

次に、別の地域でも同じように名乗り、

交通安全に関する小さなステッカーを玄関先のどこかに貼ってほしい

という頼みごとをして周ったところ、ほぼ全ての家がステッカーを張ることを承諾してくれ、実際に張ってくれました。

さらにその後、ステッカーを貼ってくれた個人宅を再度訪問し、今度は

玄関先に
「気をつけて車を運転しよう」
と書かれたこの看板を置いてほしい。

と、前述と同様の割と大きめな看板の設置をお願いしたところ、約76%もの家が「Yes」と答えてくれたそうです。

全てが段階要請法のおかげとは言えないまでも、この実験では約5倍もの効果が認められた結果となりました。

はじめにちょっとした「行動を伴う小さなYes」を引き出しておくことで、その後の要求に応じやすくなったと考えられる驚くべき実験結果となっています。

一貫性を伴う段階的要請法が効く範囲

ホーン

また、前述の実験には続きがあり、

はじめにちょっとした「行動を伴う小さなYes」を引き出しておけば、違った内容や目的のものでも後からYesを引き出せるか?

という検証も行われています。

段階的要請法の効果範囲実験検証実験では、事前に自宅玄関に貼ってくれるようお願いするステッカーを、

この街を美しくしましょう

という地域美化のためのステッカーに変更し、承諾してくれた家に再度

玄関先に
「気をつけて車を運転しよう」
と書かれたこの看板を置いてほしい

と、前述と同様の看板の設置をお願いをしました。

「地域美化」と「安全運転」という一見関わりのない違った目的のものでもYesを引き出せるか?という実験内容ですね。

結果は…

約50%弱の家がYesと答えたそうです。

交通安全に関するステッカーから交通安全に関する大きな看板の時が約76%でしたので、断られたケースも増えてはいますが、それでもいきなり大きな看板の設置をお願いした時の約15%よりは約3倍強と確率は上がっています。

段階的要請法の実験結果として

データ

この2つの実験から、

  • 一度相手の要求を受け入れた人は、次の要求も受け入れやすいこと
  • 要求は同じ目的の場合が効果を発揮すること
  • 目的が多少違っていても、要求は受け入れられやすくなる傾向にあること

が言えますね。

相手から「Yes」を引き出したい時、段階要請法を使用するのとしないのでは、結果として大きな違いとなりそうです。

段階要請法でYesを引き出すポイント

ポイント

上記の実験を踏まえると、段階要請法(フット・イン・ザ・ドア)で相手から「Yes」をもらいやすくするためには、

ポイント

  • 頼みごとを段階的に分ける
  • 本来の頼みごとの前に、相手から行動を伴う小さなYesを引き出す
  • 頼みごとの目的(カテゴリー)はなるだけ同じものにする
  • 頼みごとの難易度を極端に大きくし過ぎない

ことが挙げられます。

では、どんな風にして相手から「行動を伴う小さなYes」を引き出せばいいのか?

下記では「言葉だけのYes」の場合と「行動を伴ったYes」の場合で比較しながら考えてみたいと思います。

段階要請法の会話術

会話

ここでは、分かりやすく共通のお願いとして

共通の頼みごと

相手に仕事を手伝ってもらいたい

とします。

言葉だけの「Yes」の場合

昼ごはん食べた?
はい

今まだ勤務時間内だよね?
はい

悪いんだけどこの仕事ちょっとだけ手伝ってくれない?

だと、

  • 頼みごと目的(カテゴリー)
  • 頼みごとの難易度

もちょっと離れすぎてますね。

相手が優しい方であれば、その後に

あ…はい

と引き受けてくれるかもしれませんが、相手の心象はよろしくないでしょうし、仕事というカテゴリーは同じではありますが、相手に言葉だけ「はい」と言わせるだけでは一貫性の原理は働きづらく弱いものになりがちです。

また、これは極端過ぎる例ですが、

ここ日本だよね?
はい

日本って地震多いよね?
はい

悪いんだけどこの仕事ちょっとだけ手伝ってくれない?

なんてのは

は…?

となるのが当然ですし、ちょっと頭がおかしい人だと捉えられてしまいます。

が、段階要請法(フット・イン・ザ・ドア)を使おうとして、

相手からまず「Yes」を引き出さなきゃ…

ということに意識がいき過ぎてしまい、残念なことに上記のような使い方をしてしまっている場合も少なくないようなのでお気をつけくださいませ。

行動を伴った「Yes」の場合

ちょっとこれ5部追加でコピー取ってもらえないかな?
はい、いいですよ

ついでにこれもお願いしていい?
はい

悪いんだけどこの仕事ちょっとだけ手伝ってくれない?

と、本来の頼みごと(ここでは仕事を手伝ってもらうこと)をする前に、行動を伴った「Yes」を引き出しておくことで、次の頼みごとに対して「No」とは言いづらくなり、結果として「Yes」と言う心理傾向が強くなります。

そのため、

…はい。。

という返答が得られやすくなります。

段階要請法の状況別活用例

アバター

上記はちょっと極端な例として挙げさせてもらいましたが、一貫性の原理を利用した段階要請法はビジネスや恋愛などでも非常に有効な手段のひとつとして広く活用されています。

使い方によってはちょっとした違いで非常に大きな効果を発揮しますので、ぜひ有効にご活用くださいませ。

ビジネスなどでの活用例

仕事人

例えば、先方に仕様変更や修正依頼など何かしらの頼みごとをしたい場合、いきなり

ここ変えてください…!

とストレートに頼むよりも、まずは事前に先方に対して

ゆっくり話させて頂きたいのですが、この後会議が詰まってまして…。

申し訳ありませんがXX時になったら私に電話していただけませんか?

その時に私が会議中だとしても、電話があったら抜け出して最優先で本案件に取り組めますので

的な布石を打っておきます。

この場合、

先方が後で電話をしてくれる ≒ 行動を伴う小さな「Yes」を引き出せた

ことになり、その後に本来したかった依頼がしやすくなったりします。

恋愛などでの活用例

男女

おねだり上手や甘え上手な人は、意図してか無意識でかこの段階要請法の活かし方がとても上手な傾向にあります。

STEP.1
段階1

あのチョコ買って

Yes
STEP.2
段階2

あのレストランで食事したい…!

Yes
STEP.3
本来の頼みごと

この服が欲しい!

なんてのは典型的な例ですし、飲み会等でも

STEP.1
段階1

ちょっとそこのナプキン取ってもらってもいい?

Yes
STEP.2
本来の頼みごと

ありがと!
ついでにこっちきて一緒に話そうよ

といった感じで、Yesを引き出す流れを作るのが上手です。

また、映画に誘うときなどでも

確かBさんって「〇〇」って本読んだって言ってましたよね?
うん、持ってるよ

今度貸してくれません?
うん、いいよ

的な感じで、

本を持ってきてもらう ≒ 行動を伴う小さな「Yes」を引き出す

ことになり、本を借りた際に

ありがとうございます!
今度その本映画化されるみたいなので、読み終わったら映画に付き合ってもらえません?

と誘った方が断られにくくなります。

一貫性の原理を活用した「段階要請法」は…

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一貫性の原理は誰もが潜在的に持っているものだとされていますし、その一貫性の原理を活用した段階要請法を知っていれば、こちらの頼みごとが通りやすくなるだけでなく、頼みごとをされた側も割と自然な流れで受け入れやすくなる可能性が高いので、

頼みごとした(された)ことで人間関係がギクシャクしてしまった…なんてことにもなりにくい有効な手法だと言えそうです。

また、この段階要請法(フット・イン・ザ・ドア)は、割と立場や関係性が同じ境遇にある相手に有効とされています。

上司や目上の方に対して頼みごとをする際には、段階要請法(フット・イン・ザ・ドア)とはある意味対極にあるとされる

譲歩的要請法
(ドア・イン・ザ・フェイス)

が効力を発揮してくれる可能性が高い手法となっています。

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